とけていく…
「ねえ」

 真紀の横暴な態度に驚きながら、紫は涼のシャツの裾を引っ張った。

「彼女、さん…?」

 紫の疑問に、涼は激しく首を横に振る。

「弟なの♡」

 真紀は素早く涼の後ろに回り、背中から首を締めるように腕を回しながら紫に言った。

「ちょっ、やめ…!」

 笑いながら首を締める真紀に、涼は必死に抵抗するが、動けば動くほど苦しくなり、諦めて大人しくなった。

「弟? 涼ってもう一人お姉さんがいたんだっけ?」

 記憶を辿りながら紫はそう尋ねると、彼の代わりに「そうだよ♡」と真紀が答えた。

「違うだろっ、お前が勝手に…」

 涼がまた激しく言い返そうとすると、真紀の腕の力がますます強くなった。

「マスターが貸したCDを返しに店に来いって♡ ちゃんと行きなさいよ♡」

 羽交い締めしたまま耳元で、ニッコリと優しいお姉さん口調でそう言い残すと、真紀は彼からパッと離れ、その場を去って行った。

 まるで嵐のようだった。涼は紫の様子を横目で伺った。彼女は、軽い足取りで遠ざかって行く真紀の後ろ姿を眺めながら、某然と立っていた。



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