202号室の、お兄さん☆【完】

「椿!!! 梅!!!」

「あん?」

「桜!!! 牡丹!!! 」


「まーた、五月蝿いのが来たわ」
ガンガンと音を立てて階段を降りるのは、……甚平姿のドラガンさんです。

「日本語の美しい所はな、花の枯れる表現なのじゃ。
桜は『散る』、梅は『こぼれる』、『椿は落ちる』、『牡丹は崩れる』。どうじゃ? 日本語に痺れるだろ? この4種類を、庭に埋めて、枯れる瞬間を見ようじゃないか!」

ドラガンさんの目が生き生きとし始めたが、千景ちゃんと岳理さんは引いていた。


「お前、早く仕事行けよ」
適当にあしらい、花壇の設置に取り掛かってくれたが、ドラガンさんは尚も引き下がって、私を見た。


「撫子なら分かってくれるよな? ちなみに『花』より『華』の方が、トキメくじゃろ?」
「ちょっと、分からないです……」

そこまで、慣れ親しんだ日本語に感動なんてしません。


「かぁぁぁー! これだから今時の若いもんわ! 飲まなやっとれんわ」

……飲むのは止めて欲しいな。そんなに強くもないんだから。 そう思っていたら、ドラガンさんは服の袖から懐中時計を取り出した。

「ややっ 俳句の会に遅刻してしまう!」

そう言って、カラン、コロンと走り出したが、急に立ち止まった。




「――ピーマンはどうして植えるのじゃ?」
< 159 / 574 >

この作品をシェア

pagetop