202号室の、お兄さん☆【完】
「……っ」

新聞の人は、舌打ちすると、そのまま振り返る事も無く、足早に去って行った。

私と、まな板アーマーの皇汰はただただそれを見つめているだけだったが、千景さんが口を開いた。


「葉瀬川さん、どういう事ですか?」

おじさんは、しばらく考えていたが、やがて諦めたように無表情で言った。


「彼も鳴海くんもT大学の生徒だった。楠木先輩は臨時で半年だけ、T大のとあるゼミの手伝いをしていた。……ただ、それだけ」

千景さんは難しい顔をしていたが、ため息をついて私たちの方を振り返った。

「みかどちゃん達、ごめんね。
直接は関係無いみたいだから、大丈夫よ」

「クソジジイは有名だから仕方ないよ。それより、『葉瀬川さん』って言うの?」

顎に手を起き、ぼーっとしている人に、皇汰は尋ねた。



「ああ。103号室を書斎に使っている葉瀬川 唯一(はせがわ ゆいいつ)と申します。
千景さんとみかどさんの学校で、国語、主に現代文を教えていますよ」

そう言って、先ほど譲り受けたビニール袋を、私の目の前に突き出した。


「これ、月曜に鳴海くんに渡しといて」
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