プラスティック・ラブ
「さっきはごめんね。」
「・・・いや」
結局 結那は講義を受けずに帰っていった。
私と勇人は並びの席で講義を受け
そのまま肩を並べて学校を出た。
こうして勇人のとなりを歩くようになってから一年が経つ。
あとどのくらいこうして歩く事ができるのか、とふと見つめた横顔は
いつもと変わらない整ったキレイな横顔だった。
何度も何度も見ているのに、見飽きるどころか、そのたびに見惚れて
そのたびにときめいてしまう。美人は3日で見飽きるなんていうけれど
そんなのはウソだと思う。
男であれ女であれ、美しい人はどれだけ見ていたって飽きる事はない。
「ね。あの写真、返してくれる?」
「いや、このまま預かっておこう。
山下が確かめにくるかもしれないからな」
やれやれ、と困ったふうな顔をする彼に
それもそうだ、と納得して私は頷いた。
「じゃぁ・・・ しばらく預けとくね。
恥かしいから誰にも見せないでよ?」
「わかった」
左の胸をぽんぽんと軽く叩いて
「これを拝める俺は役得だな」と微笑みかけられると
私の鼓動はまた早くなってしまう。
たとえそれが彼の私に対するただの気遣いだとわかっていても。
だって貴方には・・・
「何言ってるかな。私なんかの写真よりも
拝みたい人がいるでしょう?」
「・・・・・・」
一瞬の瞠目の後、憂いているのに甘やかな色を帯びた勇人の瞳が
切なげに落とされた小さなため息の後でそっと伏せられた。
なんて顔をするんだろう・・・
「もう~ 成瀬勇人にこんな顔をさせる幸せな女はどこのだれ?」
「・・・」
「さすがにちょっと妬けちゃうな」
「藤崎」
「たとえ偽装でも私 一応、成瀬くんの彼女ですし?」
そうなのだ。忘れてしまいそうになるけれど
勇人には心に思う大切な人がいる。
それが私ではない他の人であることを残念に思う私は
その女性に嫉妬して。感謝している。
彼女が居てくれたから、私はこうして仮そめでも
彼の「恋人」でいられるのだから。