いと甘し。
―1―

卯月




甘味処「なごみ屋」の午後は、まるで時が止まったように静かだ。

お客さんがいないのを良いことに、私はテーブルに頭を載せてボーッとしている。

暇だなぁ、でもお客さん来たらめんどくさいなぁと従業員失格なことを考えながら、筆で書かれたお品書きを目で追ってみた。



桜餅。源氏巻。うぐいすもち。抹茶ロールにコーヒーカステラ。

なんだ、甘いものばっかだな。そりゃあ甘味処ですから。おらぁこんな甘いもん食えねぇよ。


そんな人にはむちむちうどん。オススメポイントはなごみ屋が丹精込めて作ったうどん。

太くて短いから食べるとむちむちとなんとも言えない珍妙な食感が広がる。


私はこのむちむちうどんが大好きだ。



「こら加代!暇ならボケッとしてないで外掃いてきなさい」



厨房から威勢の良い声が聞こえてきたので、私は眉をひそめた。今は暇を消費するのに大忙しだっつうの。



「うっさいな。ばぁちゃんがやればいいじゃん」

「あたしは忙しいんだよ。あとばぁちゃんと呼ぶのはお止め。タエさんと呼びな」




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