sweet wolf
「杏ちゃん」
不意に名前を呼ばれ、あたしの思考は再び停止する。
周りはすっかり静かになっていて、あたしは狼の部屋とほど近い場所にある、廊下の突き当たりに立っていた。
目の前に立つ直樹は、思いのほか真剣な目をしていて。
その瞳に吸い込まれてしまいそうだった。
「なっ、直樹!
そんな顔すんなよ!」
どぎまぎして苦し紛れにそう吐く。
そして、その肩をバシバシと叩いたが……
パシッ……
手をぎゅっと掴まれた。
「なっ、何すんの!?
直樹のくせに!」
焦って振り払おうとするが、直樹は離してくれない。
直樹の手は力強く、びくともせず。
あたしよりもずっと格下だと思っていた直樹の、思わぬ力にびっくりしてしまう。