二重人格三重唱
 「いいか、逃げるなよ」
時々繰り返す脅迫じみたセリフ。

陽子は頷きながら、無言で同行する。


日本武尊の銅像への道案内がある。

一応顔を出す。
こんもりとした丘の上に片手を上げた姿。


「オオカミが道案内をしたそうだね」
翔の問いに陽子は頷いた。


「だから狛犬じゃないんだな」
翔はアチコチにあるオオカミの阿吽像を見ながら言った。

真っ直ぐ行く翔。
それを見ながら下り坂を行く陽子。
後ろを振り返り、慌てて駆けつける翔。


「あの山門が正式なコースだと思って」
随身門を見つめる陽子。


「お義父様とお義母様の喪中だから、鳥居はくぐれないの。だから又脇を通ってね」

そう言いながら、翔を又先に行かせる。


やがて石段の上に、三峰神社の拝殿が現れる。


石段の先にある御神水で、作法に則り清める陽子。


翼を庇うために、相変わらず翔と距離を置く。
そんな陽子を見ながら、摩耶の為に翼との決別を願う翔。


二人はそれぞれに恋しい人を思い浮かべながら、心の奥で庇っていた。


三峰神社の末社群を抜けると、バス停まで続く道に出る。
でも陽子は御神峰を拝もうと、反対の石段を登った。


東屋のような拝殿に入るて目の前に聳え立つ霊峰。

陽子はひたすら翼と逢えることを願い祈った。


喪中なのに神社参りなどして罰当たりなのは知っていた。
でも翔は摩耶のために翼と決別したかったのだ。




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