二重人格三重唱
 三峰神社入り口のバス停に着く。

まず、帰りの時間を確認する翔。


(良かった。此処では殺されない)


「一時間か?」
独り言らしい。

でもその言葉で、陽子はホッとした。

広い駐車場。
二つの階段と長いスロープの登り口。

それらに目を向けながら、翔が選んだのは真ん中の階段だった。

バス停から真っ直ぐ行った所にあり、三峰神社入り口の看板があったからだった。


不意に陽子の手を取る。

陽子が青ざめる。

それを見ながら、不適な笑みを陽子に向ける翔。


「後から付いて来いよ」
翔はそう言うと、一人で歩き出した。


陽子は翔からだいぶ離れて歩く。
それには訳があった。


三峰神社はイザナミ・イザナギと言う夫婦の神様が守っていた。
夫婦和合の神様として有名だったが、一部では焼き餅焼きとの噂もあったからだっだ。


陽子が三峰神社の表参道大輪バス停近くが出身地だと言うと、みんな恋人同士で行かない方が良いと言う。


夫婦和合の神様だと言っても信じて貰えなかった。

その内陽子自身も気を付けるようになっていたのだ。


翔が何故に此処を選んだのか知らないが、心の中の翼を追い出すためだろう。
陽子はそう思っていた。
でも例え魂だけだとしても恋しい翼を守りたかった。
その一心だった。


だから神様に見つからないように、翼の魂と格闘している翔の傍に寄れなかったのだった。


自分と翼の縁も切れる。
と思っていたからだった。


「縁切りか?」

突然言う翔に戸惑いを隠せない陽子。


(母に聞いたのね。やはり翼の振りをして会いに行ったのね)

陽子は翔の本気を確信し、足取りが重くなった。


長い階段を上り、坂道になった。
下に東屋が見える。


「彼処には何処から行くんだ?」
陽子がチャンと付いて来るかを見るためなのか?
翔が振り向きながら言う。


「確か階段の途中に道があった筈だけど」

陽子は目でその道を確認しながら答えた。


「あ、あれか」
納得したように言う翔。


「でも彼処中途半端だな。一体何に使うんだ?」


「きっとお弁当とかよ」

陽子の返事に頷きながら、翔は道を急いだ。


三峰神社の白い三連の大鳥居をくぐる訳にはいかなかった。

勝の喪は開けていた。
でも、孝と薫と生きた香の喪は始まったばかりだったのだ。
陽子は仕方なく翔の傍に行って、鳥居の脇の隙間を案内した。


なだらかな坂道。
翔は陽子を気にしながら歩いている。




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