二重人格三重唱
 生き急いだ翔。

愛する人を守るため戦った翼。

突っ走ってしまった二人の肉体と精神。

自分を見失い。忘我の末にたどり着いた境地。

翼を殺害してしまったという現実。

忘れるために。罪の意識から逃れるために、翼の魂を受け入れてしまった翔。


「分かります。でも翼さんだけではないと思います」
摩耶は震えながら翔を見つめた。


「優しかったり、激しかったり、翔は寂しかったんだと思います。だから受け入れてしまうのかな」
摩耶は血潮の上で夜叉となった翔に抱かれたことを悪夢のように思い出していた。


「お義父様もお義母様もきっと翔の体に。そうでいとあの激しさは」
摩耶は泣いていた。




 翔もまた被害者だったのではないか?
偶然の悪戯がもたらした運命の。

摩耶はただ翔を信じ愛してきた。決して財産目当てなどではなかった。

子供が産まれたらまた学生に戻ると言う摩耶。

翔の分まで生きるために。

そして翼の分まで勉強するために。

それが二人の供養になると摩耶は感じていた。

摩耶もまた陽子に負けない位翔を愛していた。




 摩耶は翔と暮らし始めた事件のあった家で暮らすことが一番の供養になることを感じていた。

陽子は摩耶の決断に意を唱え反対した。


いくら翔と翼の供養のためだと言っても、日高家は殺人事件の現場なのだ。

薫が埋められ、孝を狂わせた庭。

優しいかった孝に狂気を植え付けた庭。

庭の片隅で愛する薫を思い、愛して行かなければならない香を思う。

その過酷な運命を何度も呪い、睡眠薬強姦魔へと導いた庭。

そして何より愛する夫が弟を殺し埋めた庭。

自ら選んだ南天が暴いてしまった真実。

それと向き合わなければならない現実。

摩耶に耐えることが出来るのだろうか?

ここで悪夢と戦いながら本当に暮らしていけるのか?

陽子は摩耶が心配だった。そして初めて摩耶を愛しいと思った。


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