二重人格三重唱
 毎日毎日香は孝を探し続けた。
半ば半狂乱。
それは香自身が一番解っていた。


何故一度しか遭っていない人がこんなにも気になるのだろうか?

香はその答えを知りたくて来る日も来る日も待った。

人見知りで恥ずかしがり屋の自分が、真っ直ぐに見つめられる相手が乗っている電車を。

そしてそれは、自分だけを見つめている人がいると言う悦楽に繋がっていく。




 そして一週間後。
二人は互いの視線を絡ませあった。


一週間に一度の逢瀬。
言葉を交わす訳でもない、二人だけの時間。


やっと見つけ出し時の安堵感。
再び凝視される喜び。
熱い熱い凝視は、自分への愛だと香は受け止めた。
香の心の奥に刻まれる。

永い永い一週間が地獄となり、より深い愛を育む揺りかごとなった。




 それはもう後戻りの出来ない激しい恋路の始まりだった。

孝も、この可愛い香を大好きになった。
でも、孝は勘違いをしていた。
香を後輩の薫だと思い込んでいたのだった。




 薫と孝は高校時代の一時期交際をしていた。


電車内でのハプニングが元で二人は知り合っていたのだった。


孝の持っていたテニスラケットが薫のお尻に当たり、痴漢と間違えられた。
それが始まりだった。

薫に睨み付けられた孝。
全く身に覚えがないから言いがかりだと思った。

でも必死に言い訳をした。
傍にいた同級生に勘違いされたくなかったのだ。


最初は汚い物でも見ているような態度だった薫。

でも孝の手が遠くにあったことを知る。

痴漢など出来るはずがないと、薫はやっと納得した。

とゆうか……
薫は表情を変えたのだ。
孝の甘いマスクに心がトキメク。

薫は孝に恋をしてしまったのだった。


薫はその時、ラケットの入っていたスポーツバッグに付いていた高校のマークを見逃さなかった。


だから薫はその高校へ入学したのだった。

それは、薫にとっての初恋だったのだ。




< 3 / 147 >

この作品をシェア

pagetop