二重人格三重唱
 翼は、シャワールームから顔だけ出して勝の様子を確認した。

幸いなことに勝は眠っていた。
しや、本当は眠た振りをしていただけだった。

翼も陽子もただ踊らさせられていただけなのに……


「とりあえず、身を隠していて。見つかったら大変だから」

翼の言葉に陽子は頷いた。


(そうよね。もし看護士さんにでも見つかったら……)


その時翼はまだ勝の悪巧みを知らず、陽子を守ることしか考えていなかったのだ。

陽子も陽子で、後ろめたさでいっぱいになっていた。


翼は陽子を病室に移すことが一番の得策だと思った。

陽子の体が冷え切っていることは百も承知だ。
だからと言って一緒にシャワーを浴びる訳にはいかなかったのだ。




 陽子は一旦シャワールームから出て、付き添い用のベッドの上に腰を降ろしていた。


勝が眠っているのを確認した翼が、其処で待つように言ったからだった。


結局翼が出て来た後、陽子もシャワーを浴びることになった。

翼を待つ間、心は燃えていた。
でもそれとは別に体は……
冷え切ったどころではなかったのだ。

陽子の体は芯まで冷えて、唇は紫色になっていた。


一応勝負下着は持って来ていた。
それがあのポーチに入っていた、乙女のヒ・ミ・ツだった。
所謂、お泊まりセットだった。

クラスメートの恋愛談義を羨ましく聞いていた。
だから、どうしても用意したくてみたくて仕方無かったのだ。


陽子はそれを握り締めながら、翼が出て来るのをガチガチと歯を打ち鳴らしていた。


(一応女の子のたしなみだものね)

そう言い聞かせる。
でも本当は恥ずかしい。


(ねえ、おじ様……どうしたらいい?)

陽子は勝にすがりつきたくなっていた。


でも勝は疲れたらしく、静かに目を閉じていた。




< 45 / 147 >

この作品をシェア

pagetop