二重人格三重唱
 ――ガチャ!

その音に気付いて陽子は焦り、慌ててトイレに逃げ込んだ。

その時、シャワールームの扉が開き翼が入って来た。


(ヒャー!! 危なかった)

陽子はドキマギしていた。


「ウッ!!」
翼は翼で、驚いて思わず息を止めた。


(う、ヤバい!)

翼は目の前を横切った陽子の影を、幽霊か何かだと思って震え上がった。


(話には聞いていたけど、まさか、まさか……)

身を屈めて縮こまった翼。

それでも勇気を出して、恐る恐る影の消えた方向を目で追った。


トイレのドアに僅かな隙間がある。
其処から翼を見ている眼。


(うわー!! やっぱり誰か居る!)

翼は震えていた。


でも翼の寒い原因は、その幽霊ではなかった。
翼は上半身裸で入って来たのだった。


「ハー、クション! ハークション!」

とうとう翼はくしゃみを連発した。


「大丈夫翼!」
陽子はトイレから出てすぐに翼の元に駆けつけて、縮こまった翼の体を温めていた。


翼は驚いて目を丸くした。


幽霊の正体はナント陽子だったのだ。

これが驚かないでいられようか?
翼は半ば腰砕け状態になった。


まさか……
まさか、陽子がこんなに大胆だったとは!?


(それでも嬉しい!)

素直にそう思った。

でもそれを計画したのが勝だとは思わない翼。


(ああ、どうしよう。僕のためにこんなことまでするなんて……。お祖父ちゃんに何て言えば……)

翼は戸惑っていた。


陽子も成り行き上、裸に近い翼を抱き締めていた。


でも翼の体よりも、自分の方が冷えていることさえも気付かずにいたのだ。




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