二重人格三重唱
 ことある毎に翼の双子の兄である翔の自慢話をしていた母親の薫。

翔は薫に溺愛されて育った。

一方翼は、何かにつけて目の敵にされた。

何故なのか翼も知らない。

思い当たることが全くないのに、何時も卑下されていた。




 薫はヘアスタイルが命のような人だった。

耳の形が気にいらないようで、前髪を長く伸ばして隠していた。

以前はインディアンスタイルのように、前髪で覆って後ろに束ねていた。

今は前下がりボブ。
翼と翔が高校に入学した頃だった。
アナウンサーのヘアースタイルを見てすぐに真似をしていた。


それ以前の薫は、翼が朝幾ら早く起きてもキチンとお化粧をしていた。

シミやソバカスを隠すためとか言って、コンシーラーを欠かさなかった。

でも髪型を変えた事もあって、ナチュラルメイクに変わっていた。

でも相変わらず、シミ隠しだと称してのコンシーラーだけは欠かせなかった。


翼と翔の父親の孝はそんな薫を暖かく見守っていた。

しかし孝は可愛い女性に目がない人で、何時も薫を困らせていた。

孝は自らインストラクターをしているテニススクールと、隣接しているカフェを経営していた。

全ては趣味であるテニスと珈琲を極め、可愛らしい女性との出逢いの場とするために。




 陽子はハッとしていた。

翼の祖父の勝から、噂は聞いていた。

母親に愛されていないこと。

自分達に気を使って、その事実を隠していること。


でもその翼が誰よりも母親である薫を愛していることなどを。


堀内家の人々はその事実を知らないことにした。


翼が負担に思い、この家に来なくなるのを恐れていたからだった。


翼を翔と呼び違えた陽子。


これ以上の屈辱はないかも知らないが、陽子も口を塞ぐことにした。




 翼もハッとしていた。

逆光で見えなかった陽子の本当の輪郭に気付いたからだった。

美しく整った顔。

憂いのある眼差し。


胸がドキッとなった。

鼓動が物凄く激しくなる。

翼は陽子の美しさに我を忘れていた。


(うわっー!? ヤバい! わぁ〜!? 一体何なんだよ!! ヤバいよ……。こんな感覚初めてだ!)

翼は居たたまれなくなって顔を背けた。


胸の高まりは増す一方で、翼はなすすべもなくただ呆然としていた。


慌てふためいていた。

突然の感情にうろたえていた。

翼は陽子をまともに見ることさえ出来なくなっていたのだった。


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