蒸発島

「病気や怪我で死んだ人は黄泉に行く前にまずこの島に来る」
「はあ、なんのために?」
「病気を治してから黄泉にいくためだ。
 この蒸発島には病院がある。皆そこで治療している。風子に会いたがっている人も、病院の中に居る」
「はあ」

 気の無い返事をすると、二藍は悲しげな目をした。長い睫毛が下がっている。
 綺麗な顔だと思った。子供とは思えない大人びた雰囲気を感じた。
 黄泉だのなんだのと訳の分からない事を言っているけれど、彼女の持つ不思議な空気が、私の疑心を掻き消していく。

 もしかしたら彼女も、死人なのかもしれない。
 目の前に居る小さな女の子が、死んでしまってもうこの世に居ないのかと思うと、胸が締め付けられる。 彼女を信じてあげようという気持ちが湧いてきた。

「病院って、どこにあるの?」
 彼女に話を合わせる。
 辺りを見渡してみたが、この島には私達とぽっかり空いた穴しかない。
 二藍は私の中で変化があったことに気付いたらしく、睫毛を上げてまたもとの明るい顔に戻った。

「この島の中心部にあるあの穴が入り口だ。
 さあ、行こう!」
 二藍は私の手を引っ張り、歩き出した。

 本当にこれから死人と会うのだろうか。分からない。死んだ人が居る病院。
 正直、怖い。恐ろしい。

 それなのに、強く手を引く二藍を止められない。
 悲しげな顔をした二藍の顔が頭から離れなくて、そんな顔をもうしてほしくなくて。


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