お茶の香りのパイロット
ルイリードは右手でアルミスの左手を掴むと、目をとじて念を送るように、体に力をいれた。


それに合わせるようにアルミスも目を閉じて開いた右手を横に広げて構えた。


30分程経ったくらいに2人は深呼吸をしてお互いを見つめたが、先に口を開いたのはアルミスだった。


「ルイ、あなたを亡くしたくない。
やっと尊敬できる兄さんに再会できたというのに、ゆっくり語らいながら暮らす時間が少ししかないなんて。」


「嘘つけ、俺のことを憎んでいたくせに。
まぁ俺がフィアの気持ちを知りながら、奪ったのは確かだから言い訳はしないけどな。

本当にすまない・・・。
この世界を破滅に向かわせないようにするには、おまえの力と俺の子の力が必要だったから・・・わかってほしい。

もちろん、そのためにフィアに近づいたんじゃない。
俺もずっとフィアが好きだったから、あのとき・・・助けてしまったときからもう誰にも渡すつもりはなかった。
だが・・・フィアとの時間は限られた時間でしかないから・・・誰かに託すしかない。

だったら、他人の誰かわからない男なんかよりも、俺たちの父さんの血をひいているおまえに頼むのがいちばんだと思った。」



「そのことでなんだけど、俺も兄さんみたいに魔力が使えるか試したいんだけど・・・。
結界を張ったり、ロボットの技に応用する方法を教えてほしい。」


「そうだな。
眠り続けていたその力を自由に使いこなさなければ・・・到底、アーティラスには勝てないだろう。
あいつは、俺の健康な体を横取りしたうえに、戦闘の中で優秀な相手がいれば、能力をどんどん自分に吸収していっているからな。

その吸収力がとても厄介なんだ。
本来は俺の得意とする能力でもあった。

しかし、体とともに盗まれた。
もちろん、アルミス、おまえにも吸収能力はある。
けどな・・・おまえは親父とは血液型が違うから・・・母親似だから・・・能力は弱い。」


「くっ・・・そんな、生まれながらにハンデってあるのか。」


「残念ながら、あるんだ。
でも、勝てる方法はある。
吸収して成長するパイロットがいればいいんだ。
何でも吸収して、どんどん育っていく子どもだ。」



「なるほど・・・それで・・・兄さんはフィアと・・・。」



「ああ、まだ話をきちんとしていなかった頃に、フィアをレイプまがいに騙してな・・・。
もちろん、後で謝罪をしたし、許してももらっているけれど、フィアのおまえへの思いを考えると申し訳ない限りだ。
なのに、彼女は俺が死ぬまでいる。死んでもいっしょにいると言ってくれた。

俺は何とか自分の手で、自分の子をとりあげて俺の願いをめいっぱい伝える。
そして、おまえの片腕となるはずだ。」


「兄さん・・・。俺もその子が産まれるときには立ち会わせてもらってもいいか?
その子のために父親との写真を撮っておいてやりたいし。」


「いいのか?」


「ああ。俺たちは運命にもてあそばれて存在しているといってもいい。
普通の常識の付き合いなどしなくてもいいはずだよな。
フィアさえ了解してくれれば、夫が2人になっても問題ないはずだ。」


「兄さんは昔と変わってないな。
自由人っていうか、発想がすごいよ。

俺は天才科学者などと言われて舞い上がってただけだなって思う。
兄さんの肩書きは『戦う産婦人科医』だもんね。
セイリールの仕上がりはすごいし、未完でありながら、未来を見据えて用意してあるなんてすごすぎるよ。」


「未来がないから、見据えて用意するんだ。
すべて夢なんだよ。
俺の夢・・・夢だから消えるときは消えてしまう。

セイリールの夢が消えてしまったときから、ラーガが復帰する。
復帰して、セイラーガとなれば・・・俺とおまえ・・・そしてフィアと子どもで・・・家族の夢が突き進むことになるだろう。

俺たちの夢を仕上げてくれよな。」
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