お茶の香りのパイロット

2日後、アブリールにヤーガンとディッドの連動装置を装着して、ワガンとディーナは2人でアブリールのコクピット内に乗り込んだ。


それに続いて、アルミス、フィア、ルイフィスもセイラーガに乗って始動を始める。


「敵の数は特定できません。
アーティラスは結界を張っているので、テリトリー内に突入すればドールがどのくらい飛び掛かってくるか不明です。」


「ええっ、もし何百というドールがきちゃったらどうするんですか?」

ディーナが思わず叫ぶと、アルミスは冷静に話を続ける。


「数はもう関係ありません。
ドールはおそらく私たち3人で10秒ほどで片付きます。

それにその後残ったものがいたとしても、国王の愛機は独自で結界を張り、逆に打ち破りますからザコに対しては心配はいりませんよ。

で、問題はアーティラスがどういう機体で出てくるかです。
私の予想が正しければ、機動型ドールの親玉らしい接近戦重視のはずです。

でも、そいつは私たち家族で対応しますから、ワガンとディーナはバックアップよろしくお願いします。」


「了解!」

「わかりました。」


そしてすぐにナオヤのカウントダウンで、アルミスたちは基地を飛び立ち、30分もしない間に王宮前に到着した。

静寂に包まれた王宮の広い森と庭。

あまりに静かすぎて、ディーナたちにさえ、結界の中だと察することができた。



(ここが結界範囲の中心のはず・・・アーティラスはどこにいる?)



1分もたたないうちに、ルイフィスが上を指差して「ああっ」と叫んだ。


「上からだ!フィア、ルイ、俺に集中してくれっ!」


「はいっ。」

「だぁ!」


アルミスの予想通り接近武器で斬りかかってきた敵をいったんセイラーガの剣で弾き飛ばす。

その隙に、アルミスは小声で呪文を投げかけた。


「ルイ、ド、ガゥ、ナ、ラウ、ヴァ、イルディ、ファウ!」

すると、アーティラスの後ろから襲ってきたドールとドール型の上官機の動きがピタッと止まった。


「今だ、ワガン。上官機を頼む。」


「ディーナ、がんばっ!」



「えっ!?今のってルイなの?ルイがしゃべった。
きゃあ~~ん!了解、私の王子様。」



アルミスはすかさず、アーティラスの機体の中のイメージを呼び起こし、様子を偵察した。


「これは・・・アブリールの強化版が基礎になって、その上にとてつもない機動力が備え付けられていますね。
だが・・・これほどの機動力は、今のアーティラスの体にはつらいはずだ。」



「ああ、壊れかけのこの体では確かに空中戦はつらいよ。
だがな、これを見てもらおうか?」


「何!?」


「ワハハハハハ!王宮にはまだたくさんの使用人や兵隊たちが存在している。
今日まで本当に、よく仕えてくれたものだ。

感謝をこめて、我のために盾になってもらうとしようか。」


「ばかな。味方を犠牲にするとは・・・それでは私に勝っても、誰もついて来やしないぞ!」


「誰が着いてくるだって?そんなものはいらん。
そう、この世界の悪の根源は人の欲そのものだ。

諸悪の根源はすべて消えることが望ましい。
そして、私の選んだ生命がこの地から新たな命を育むことになるだろう。」


「っ・・・そうか、おまえは小さい頃から生物学を研究していたんだったな。
それで、歪んだ方向へと導いたってわけか。」


「ああ。俺は正真正銘の国王と王妃の息子でありながら、親の信頼はとても薄かった。
父は公務ばかりして、母を泣かせてばかりで母は俺に当たり散らすのが日課。

母が死んでやっと親父が仕事以外に目を向けたと思ったら、遊び好き、浪費だらけの女に好きな用にされて国王としての威厳もなくなってきた。

だったら王子である俺に家督を譲って引退すればいいものを、そういうときだけ親らしいフリをして俺の健康上の都合だとか言って、連れ子のおまえを誇らしげにして。

挙句の果てにはあの野蛮なルイリードまで軍を任せたいとか言う始末だった。

だが、バカな親は息子の素質を知らないがばかりに無駄死にをした。
アブリールが思い通りにチューンできなかったのは誤算だったが、俺には魔力が備わっているからな。
それだけが国王の唯一のいい置き土産だと思ってたさ。」


「言いたいことはそれだけか。
おまえは小さい頃から、親の傍にも行こうとしなかったじゃないか。

どんなに父母がおまえを気にかけて声をかけても、自分から部屋にこもったくせに。
おまえは本当にひとりですべて生活できていたと思ってるのか?」


「ああ、子どものときだって世話はナニーやメイドが手伝ってくれるだけで、あとはすべて俺が・・・」


「違う!おまえは薬のせいで悪い夢を見てただけだ。
おまえが高熱を発して寝ている間、ずっと面倒を見ていたのは王様だ。

私の母も子どもの手を取らない母親だったが、あの母親を妻にもった男は前も後も愛情深い男だった。
国王として、表だってはメイドの仕事みたいなことをしてるなんて言えるわけなかっただろうが、私はおまえの部屋から、何度もワゴンを押して出入りしていた義父の姿を見た。

じつの父もそんな姿を見てた私は、国王で会っても息子の世話はしてくれるんだなって思った。」


「よくも、そんなでたらめを!」
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