それでも、課長が好きなんです!
「やっぱり……何か知って」
「なぁ、先に一個聞かせてよ」
「なんですか……?」
「その上司は千明のなんなの?」
「何って……」

 ただの、元上司ですけど。
 それ以上でもそれ以下でもない。
 そう告げようとすると、先に「あ、また急に暗い表情(かお)になった」と言われ言葉に詰まる。
 チクリと痛む心の内を見透かされているようで、悔しくて、認めたくなくて大袈裟に明るく振る舞った。

「実は、前好きだったんです!」

 目の前に相手の存在だけを感じ、視線は自分の手のひらを見つめたまま。
 相手の反応を確認することなく、一方的にしゃべり続けた。
 
「あ、とっくに振られてますけど。手応えなくそれも二回も! だからさすがにもう……」
「……もう?」 
「もう……」

 言葉の勢いのよさも一瞬で、ゴクリと言葉と息を飲み込む。
 二回告白して振られている。
 「だからさすがにもう、まだ好きだってことはないーー」。
 ずっとずっと無視して押し殺してきたこの気持ちを、改めて思い感じてみると……そうは言えないよ。
 だって、会っちゃうと今日みたいにやっぱり気になって……

「まだ、好きなんだ?」
 
 自分では言葉に出来ないこの気持ちを、あまりにも簡単に言葉にされ手をぎゅっと握りしめる。

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