それでも、課長が好きなんです!

第15話 ズルイ男?

 声は出ず、口を開けたまま目を見開いていた。

「あ、ビンゴ?」

 いつの間にか立ち上がった佑輔君が、目の前でしゃがみヒラヒラと手を振っている。
 驚いて「わっ!」と声を上げてのけ反る。
 手に持つビールに危険を感じ、少し離れた床の上へ手を伸ばして置いた。

「千明とホヅミさんってたしか……元上司と部下じゃなかったっけ?」
「その通りです……けども……」
「お、また当たった」

 佑輔君はその場にあぐらをかいて腰を下ろすと、すぐに「あ、今何時だ?」と部屋の中をキョロキョロと見渡している。

「観たいテレビがあるんだよ。千明の家行っていい?」
「あ、あの……」

 佑輔君は「時計くらい置かないとな~」と言い、時間を確認するために立ち上がろうとした。
 あれっ、話しが変わった!?
 ちょっと、待って……!

「穂積さんのこと、知ってるんですか!?」

 必死になるあまり、無意識に立ち上がろうとする目の前の彼の腕を力強く引いていた。
 腕を掴む手に佑輔君の温かい手が重なりドクンと心臓が高鳴って我に返る。
 でもそれはただ、掴んだ手を解くためだけであってすぐに彼の手は離れた。
 馬鹿みたい、何でドキドキして……

「知ってるも何も……」
 
 佑輔君の口から何かが語られようとしてゴクリと息を飲む。
 そんなわたしの表情を一見した佑輔君は、一度目を逸らす。
 
「ていうか。ただの上司が、女と一緒にいたからってそんなに気になるもん?」
「や、だって。……あの綾川京子だし……」
「あの会社の社員なら、仕事の件についてとかじゃないの?俺も何人か会ったし。どこの部署の人だったかな~」
「穂積さんはたぶん……宣伝関係には、無関係のはずなんですけど……」
「ふーん、そっか」

 しばらくの沈黙。
 そしてその沈黙は、再び目を合わせた佑輔君の言葉によって破られる。

「なぁ、千明の家行っていい? テレビ、はじまっちゃうんだけど」

 ま、また話しが変わった!
 わたしはめげずにくらいついた。

「何か知ってるんですか!?」

 普通の会話の声のトーンより何倍も大きな声が部屋に響いた。
 佑輔君は、めずらしく困惑した表情を見せる。
 そして自分の顔を指で差して「この顔で察してよ」と言った。
 困った表情……これ以上は聞かないで欲しい、言い辛いことってこと?

< 44 / 68 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop