【完】君ノート




「あっ……」



私は……なにを忘れていたんだろう。


大切な、大切な家族との思い出。



……優くんの温もりを懐かしいと感じたのは、

お母さんの温もりに、似ていたからだ。



……私とお母さんには、ちゃんと思い出がある。




「花音?どうした?」



いつの間にか、頬には涙がつたっていて。

お父さんは心配して、私を覗き込む。




「私……忘れてた。

大切な……思い出……」




お母さん。


ごめんね?


お母さんがいつも、『花音、笑って』って言っていた理由。




思い出した。




───────────。




『花音、泣かないで?
にっこり、笑っていて?』



お母さんの言葉に、私は泣き止むことはなかった。


風にのって、すずらん畑が揺れる。

滲んでいた世界は、鮮やかだった。




『花音。笑ってると、きっと幸せになれるよ?
だから、笑って?』


その言葉に、涙をこらえて必死に笑って見せた私。





『…….こう?こうで…….いい?』



『そうそう。
あなた笑うとすごく可愛いんだから、ずっと笑っていてね……』


そう言ってお母さんは、1本のすずらんを手に取った。

そして、私の小さな手のひらにそれを乗せる。


『ほら、花音が笑うだけで、お母さん幸せになれちゃう。

花音は、お母さんに幸せをくれる、大切な子供よ』



すずらんの花言葉は、〝幸福〟。



───────────。




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