【完】君ノート
「ここは奏の大好きな場所でな。
……春にはすずらん畑になるんだよ」
お父さんは懐かしむように、そう言った。
秋の季節だから、すずらんがなかったんだね。
あれ?
……すずらん畑?
────────────。
────………。
『花音ー!危ないから戻っておいでー』
小さい私がすずらん畑にいる。
楽しそうに走り回って……。
お母さんが遠くで呼んでる。
『あーあ。コケちゃった…。
泣かないのー!』
ドジな私がコケて、泣いてる。
小さい頃から、泣き虫だったんだなぁ。
心配して、お父さんとお母さんが駆け寄ってきてくれた……。
『花音はお母さんの、自慢子供だよ?
優しくて、強い子になって?』
お母さんが、私の頭を撫でてくれてる。
お父さんは、優しい笑みで私たちを見守っていた。
『花音……笑って?』
そう言って、私を抱きしめたお母さん。
この温もり……。
この懐かしい温もりを、知ってる……。
──────……。
───────────。
私は閉じていた目をあけた。