【完】君ノート




「ここは奏の大好きな場所でな。
……春にはすずらん畑になるんだよ」


お父さんは懐かしむように、そう言った。



秋の季節だから、すずらんがなかったんだね。


あれ?


……すずらん畑?




────────────。

────………。




『花音ー!危ないから戻っておいでー』



小さい私がすずらん畑にいる。

楽しそうに走り回って……。


お母さんが遠くで呼んでる。




『あーあ。コケちゃった…。
泣かないのー!』


ドジな私がコケて、泣いてる。

小さい頃から、泣き虫だったんだなぁ。


心配して、お父さんとお母さんが駆け寄ってきてくれた……。



『花音はお母さんの、自慢子供だよ?
優しくて、強い子になって?』



お母さんが、私の頭を撫でてくれてる。

お父さんは、優しい笑みで私たちを見守っていた。





『花音……笑って?』



そう言って、私を抱きしめたお母さん。



この温もり……。

この懐かしい温もりを、知ってる……。




──────……。

───────────。




私は閉じていた目をあけた。




< 352 / 433 >

この作品をシェア

pagetop