助手席にピアス
Sweet*15

明らかになる過去


桜田さんのキスを拒んでしまってから、初めて顔を合わす土曜日。

どんな風に桜田さんと接すればいいんだろう……。

悩みながらガトー・桜に行ってみれば、桜田さんは特に変わった様子を見せずに私と接してくれた。

ホッと安堵しながら一日を終えると、桜田さんはいつものように車のキーを手にする。

桜田さんとふたりきりの車内は、やはり気まずい。奥さんのことと、琥太郎のことを話さなくちゃ、と思えば思うほど緊張してしまい、声が出せなかった。

桜田さんが運転するバンが、マンション前に到着する。

「きちんと戸締りしろよ」

「はい。送ってくれてありがとう」

相変わらず優しい桜田さんに向かって、私はいつもの言葉しか言えなかった。



次の日の日曜日も、何事もなく一日が終わった。無言で車のキーを手にする桜田さんの後を追う。

心の奥底では琥太郎に対する思いを燻らせているくせに、優しい桜田さんに甘えている自分が卑怯で、大嫌い。

涙が零れ落ちないように唇を噛みしめていると、運転席から思いがけない言葉が聞こえてきた。

「なあ、来週の土曜日の午後。俺とデートしてくれないか?」

デートという甘い単語が桜田さんには似合わなくて、込み上げてきた涙も驚きのあまり引っ込んでしまう。

< 163 / 249 >

この作品をシェア

pagetop