My sweet lover
15分ほどして、社長が社長室から出て来た。


「待たせたな。帰ろうか」


「はい」


私は厨房の電気を消すと、社長が待つ従業員出入り口へと向かった。


社長が従業員出入口に鍵をかけて、傘を広げる。


なかなか歩き出さない社長。


どうしたんだろうと社長を見上げると。


「何やってんだ?入れよ。濡れるぞ」


「あ、あぁ、はい」


そういうことか。


全然ピンと来ていなかった。


なんだかドキドキしながら、私は社長がさしている傘の中に入った。


ピッと車の施錠が解かれると、社長は助手席のドアを開けて、傘で雨から守ってくれる。


おずおずと助手席に乗り込むと、社長はドアを閉め、外から運転席へと回り、車に乗り込んで来た。


エンジンがかかり、ワイパーが動かされる。


「すげぇな。大降りだ」


社長はそう言うと、車を発進させた。


車が走るシャーッという音と、ワイパーが動く音だけが聞こえる車内。


社長は特に何も話さない。


この静かな空間に、私はなぜだかドキドキしていた。


「なぁ、お前さ」


突然、社長が前を向いたまま声を発した。


「な…んでしょう?」


戸惑いつつ社長に目を向けると、対向車のライトに照らされる横顔があまりに綺麗で、つい目を奪われてしまった。


「もっと人に頼ってもいいんだぞ」


「え…?」


それって、どういう意味…?


「何でも自分一人でやろうとするな。
お前が少々頼ったくらい、誰も迷惑だなんて思わないから」


「社長…」


「雨の日は俺がちゃんと連れて帰ってやるから。これからは、絶対ひとりで帰ろうとするな。わかったか?」


どうして社長は、時々こんな事を言うんだろう。


なんだか涙が滲んでくる。


私はそれを悟られないように、はいと静かに返事をした。

< 159 / 380 >

この作品をシェア

pagetop