My sweet lover
「由梨(ゆり)、また炭酸水一人で運んだの?」


「うん」


「社長ってばホントにひどいわね」


肩下まである髪を一つに束ねながら話しかけてきたこの子は、私と同期入社の柚木沙希(ゆのき さき)。


アルバイトをしていた私の方が仕事には詳しいけれど、社員としては同期の沙希とは自然に仲良くなっていた。


「あっ、社長が来たよ」


スープの湯気が立ちこめる厨房の中で、私と沙希は他の社員と共に姿勢を正した。


「おはようございます」


社員全員で挨拶をすると、社長はいつものように淡々と朝のミーティングを始める。


こうして見てみると、社長はいい男の部類に入るのかなという気がする。


社長という肩書きがあまり似合わないセクシーな雰囲気だ。


彼は大学卒業後、某有名ホテルに勤務しながら経営のノウハウを学び、25歳の若さでこのレストランの社長になった。


イタリア留学経験もあり、イタリア文化には精通している。


ちなみにこのレストランは、もともとは社長のお父様のレストランで、彼はそれを引き継いだ。


私と彼との出会いは約半年前、短大2年の1月。


2代目が社長になると聞いた時は、どんなヤツかと思っていたけど。

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