嗤うケダモノ

満面の笑みで手を振る由仁の前で、日向は急ブレーキをかけて疾走を止めた。


「え?
俺のコト捜してたの?
ウレシー。」


ウレシがってる場合デスカ。

目の前にあるはだけた学ランの襟を掴んで引き寄せた日向は、鼻と鼻がくっつきそうな距離でギロリと由仁を睨みつけた。


「先輩ぃぃ…
ナンスカ? ナンナンスカ?
アレはナニゴト???」


「んー? ナニかあったー?」


「ナニをスっとぼけてやがりマスカ。
あんなコト言ったら、私、ますます学校に居づら…く‥‥?」


言いかけた言葉は、日向の口の中に消えていった。

あれ?
ちょっと待って?

ますます居づらくなった?

さっき襲ってきたRPGの敵キャラたちは、
『悪かった』とか
『ごめんなさい』とか
言ってたような?

つまりもう、視線の槍は刺さらないってコトで。
一日一画鋲もなくなるってコトで。

あれ?
コレ…
居づらくなくなったンじゃね?


「‥‥‥先輩…
ありがとうございました…」


さっきの体勢で固まったまま、日向はポツリと呟いた。

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