嗤うケダモノ

「もう安心だよネー。
‥‥‥でショ?」


(この人は…)


ナニも見なかったコトにするつもりなのだ。

目線よりも少し高い場所にある由仁の笑顔を見つめたタニグチくんは、そう悟った。

どうしてそんなコトになったのか未だによくわからないが、毎晩日向の部屋を覗いていたのは事実。

昨夜は由仁の部屋まで出向き、危害を加えようとまでしたのも事実。

殴り飛ばされて完全に覚醒し、自分のしてしまったコトは全て思い出せる。

本来なら、軽蔑されて罵られて当然だ。

コワいとか、キモいとか。
サイテーとか、クズとか。

白い目で見られて。
後ろ指を差されて。

たぶん… いや必ず、日向にも。

この人にとっては、そのほうが都合がイイはずなのに…


「…
なんでだよ?」


唇を噛んで顎を引いたタニグチくんは、警戒心を剥き出しにして由仁を睨み上げた。

恋敵なンだ。
殺そうとまでした相手なンだ。

そんなヤツを許せるほど、人間は慈悲深くない。
そんなヤツを庇えるほど、人間は寛容じゃない。

そうだろ?

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