嗤うケダモノ

野太い掛け声が上がる柔道場の横を駆け抜けた日向が、用具入れの錆びた扉を視界に捉えた。

後少し。
足を止めるな。

…ダダダ ダっ

スピードは保ったまま。
右手のバットを振りかざして。

バターン!


(…あれ?)


扉を開け放った日向が見た光景は、彼女が予想していたモノとはかなり違った。

叩きのめすべきAくんは、由仁に腕を捻り上げられて床に伏していて。
救い出すべき由仁は、Aくんの腕を捻り上げて彼を捕り押さえていて。

…あれ? 逆じゃない?
ん? 逆じゃないンだ?

助太刀無用!的な?

だが、スピードに乗った身体はすぐには止まらない。
その上、頭が混乱ぎみで足元がおぼつかない。

入り口の段差に躓いた日向は…


「ぎゃっ?!」


派手にスっ転んだ。

その拍子に手から離れたバットが宙を舞い…

ヒューン… ゴン!


「ぎゃっ?!」


倒れているAくんの頭に、見事ヒットした。



ナニ?このコント。

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