嗤うケダモノ


瞼を上げた日向は、勢いよく上半身を起こした。

ソコは黒いソファーの上。
愛想のない無機質な蛍光灯。
細長い部屋をもっと細く見せるロッカー。

オカ研部室だ。
戻って来たンだ。


(先輩は‥‥‥?)


日向が視線を落とすと、捜し求めるその人はすぐに目に飛び込んできた。

力なく床に横たわり、はだけた胸にコードの伸びる白いパッドを貼りつけられた由仁が…


「イヤぁっ?! 先輩っ??!!」


日向は甲高い悲鳴を上げて、由仁に取り縋ろうとした。

が、背後から百合に羽交い締めにされる。


「ダメ! 感電するわよ!」


「でも… でもっ!先輩が!」


「大丈夫よ!
ジンは戻ってくる!
樹を信じて!!」


百合にそう言われて初めて、日向は由仁の隣に膝を着く樹の存在に気づいた。

伸びたコードの先にあるAED本体のポタンに、慣れた様子で樹が触れる。

途端に跳ね上がるしなやかな肢体。

そして、息つく暇もなく始まる胸骨圧迫。

これは、間違いなく…

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