嗤うケダモノ

(死んでる…)


まるで眠るように長い睫毛を伏せた由仁は、不吉なまでに美しい。

あの女が言っていた通り、彼は死んだのだ。
死んで、助けにきたのだ。

箱に囚われた日向を…


「…
ヤダぁ…」


震える指先で口元を覆った日向の目に、たちまち涙が溜まっていく。

箱から解放されても、彼がいなければ意味がない。

伝えたいコトがあるのに。

大切な…
本当に大切なコトなのに。

瞳の水分許容量はもうMAX。

溢れて、零れて、頬を伝って…

日向の顎からキラキラ光る涙が滑り落ちた瞬間、


「っ っハっっ」


たった今まで死体だった由仁が声にならない声を上げた。


「よし。
やはり俺に不可能はないな。」


額の汗を拭いながら、樹が呟く。


「どっちかっつーと、ナポレオンよりブラックジ●ックじゃない?」


日向の身体に絡めた腕を解きながら、百合が呟く。

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