嗤うケダモノ
伍
ガタガタと音の鳴る木の引き戸を開けると、竈や井戸がそのまま残る土間があった。
昔は本当に炊事場として使用していたのだろう。
奥には、古い建築にありがちな高低差の大きい上がり口。
そして、歴史を感じる黒ずんだ板張りの廊下。
その廊下で、仏頂面の孝司郎が待っていた。
わかるよ。
ホントは不本意なンだよネ。
だけど、離婚まで決意しちゃった奥さんには逆らえないンだよネ。
無愛想なりに杏子に向かって頭を下げた孝司郎は、ボソボソと昨夜の非礼を詫びた。
だが、すぐに踵を返して歩き出してしまう。
座敷牢まで案内してくれるようだケド…
早ぇよ!
段差が大きすぎて、靴を脱ぐのも時間かかンだよ!
瑠璃子なんて、建て付けの悪い引き戸を閉めようと、未だに格闘してンだよ!
ちょっとは待てやぁぁぁぁぁ!
もう…
これだから、坊っちゃん育ちの長様(笑)は…
一様に苦笑いを浮かべた杏子、由仁、そして日向は、孝司郎の後を小走りで追いかけた。
廊下の角を曲がって。
これまた黒ずんだ木戸を潜ると出現する、急な階段を下りて。
半地下だからか、やけに天井の低いスペースに出ると…
ハイ、ありました。
座敷牢の扉。