嗤うケダモノ


ガタガタと音の鳴る木の引き戸を開けると、竈や井戸がそのまま残る土間があった。

昔は本当に炊事場として使用していたのだろう。

奥には、古い建築にありがちな高低差の大きい上がり口。
そして、歴史を感じる黒ずんだ板張りの廊下。

その廊下で、仏頂面の孝司郎が待っていた。

わかるよ。

ホントは不本意なンだよネ。
だけど、離婚まで決意しちゃった奥さんには逆らえないンだよネ。

無愛想なりに杏子に向かって頭を下げた孝司郎は、ボソボソと昨夜の非礼を詫びた。

だが、すぐに踵を返して歩き出してしまう。

座敷牢まで案内してくれるようだケド…

早ぇよ!

段差が大きすぎて、靴を脱ぐのも時間かかンだよ!

瑠璃子なんて、建て付けの悪い引き戸を閉めようと、未だに格闘してンだよ!

ちょっとは待てやぁぁぁぁぁ!

もう…
これだから、坊っちゃん育ちの長様(笑)は…

一様に苦笑いを浮かべた杏子、由仁、そして日向は、孝司郎の後を小走りで追いかけた。

廊下の角を曲がって。
これまた黒ずんだ木戸を潜ると出現する、急な階段を下りて。
半地下だからか、やけに天井の低いスペースに出ると…

ハイ、ありました。

座敷牢の扉。

< 377 / 498 >

この作品をシェア

pagetop