嗤うケダモノ
日向とギャアギャア喚きながら、出陣コントを継続している由仁。
嬉しそうな、でもソレを隠そうとして拗ねたフリをする空狐。
二人に視線を送った杏子は、楽しげに微笑んだ。
だが、和やかな雰囲気もココまで。
「なっ ナニが起こっ…
っっっ??!!」
階段の上の、母屋への出入口である木戸が、大声と共に開かれた。
現れたのは、青ざめた孝司郎と目を丸くした瑠璃子。
「マズい。」
由仁はより一層強く、もがく日向を羽交い締めにした。
首討っちゃマズいからネ?!
「マズい。」
空狐は慌てて姿を消した。
また『小さい黄門様が現れる旅館』なんてネットに流れちゃマズいからネ?!
だが孝司郎は、自らを討ち取ろうとする荒武者も、目の前で起こった心霊現象も、これっぽっちも見ていなかった。
彼の瞳に映るのは、ただ一人。
黄金に輝く瞳。
鮮やかな朱の隈取り。
立ち昇る白い陽炎。
忘れたくても忘れられないその人が、もはや人ではない姿となって…
「ぅわぁぁぁぁぁ!!
千鶴子!! 千鶴子ぉぉぉぉぉ!!!」