嗤うケダモノ
だが、慌てて引っ張り出した様子のやけに可愛らしい小紋を着た瑞穂が、仲居たちに囲まれて、ぎこちないながらも笑顔で見送ってくれた。
外に出ると、旅館名入りのハッピを着て箒を持った清司郎が、由仁に秘密を教えた年配の仲居になんだか叱られていた。
由仁と日向に気づいてブンブン手を振ったため、
『若旦那!
お客様へのご挨拶はクドクド…』
などと、さらに叱られていた。
良くも悪くもココは青沼王国。
どれだけ拙くとも、清司郎が頑張っていれば、集落の人々は彼を見捨てないだろう。
手を差し伸べてくれるだろう。
そして、良くも悪くも清司郎はアノ性格。
ヘタレはカリスマにはなれず、絶対王政はいずれ消滅するだろう。
道理に反した命令を下す者はいなくなり、その命令に唯々諾々と従う者もいなくなり、そして、それらの犠牲となる者も…
「ねー、ヒナ?
バスが来るまで、まだ時間あるヨネー?」
バス停の手前で足を止めた由仁が言った。
「ハイ。
余裕持って出てきましたから。」
「じゃ、ちょっとココで待っててー?」
由仁はその場に荷物を置き、首を傾げる日向の頭に軽く手を乗せて微笑んでから、彼女に背を向けた。