【完】白衣とお菓子といたずらと
「……おかえり」
「あれ?礼央さん、迎えに来てくれたんだ」
キャリーバックをゴロゴロと引きながら駅の改札を抜けた美沙に気づき、俺から声をかけた。
俺の存在に美沙も気づいて、驚いたように目を見開いている。まさか迎えにくるとは思っていなかったんだろう。
「そういえば車は?」
「家に置いてきました。一度荷物を置いてから、礼央さんのところに行くつもりだったし」
そうだと思って迎えに来たんだ。
帰ってきたところをそのまま捕まえるつもりだった。
「ほら、貸して」
「あっ……ありがとう」
重そうなキャリーバックを彼女から奪って、そしてスタスタと車へ移動した。
彼女はお礼だけ言うと、特に何も言わずに俺の後を着いてきた。
いつもは俺の隣を歩くのに、俺の微妙な空気を感じ取ったのか決して隣に並ぶことなく、斜め後ろを一定距離キープしたままだ。
いつも通り過ぎる彼女に、俺のほうが平常心を保てないでいる。
「えーっと、礼央さんの所に直行?」
「うん、そのつもり。なんか都合悪かった?」
「んーん、問題なしだけど……」
「……」
いつもとは違う沈黙が2人の間に流れていた。
気づかないはずはないけれど、気にしない振りをしてそのまま車へと急いだ。