【完】白衣とお菓子といたずらと
――コンコン


「……はい…?」


突然なったノック音に、首を傾げた。今日は、誰も来る予定はないんだけどな。


一体、こんな時間に誰だろうか。


疑問に思いながらも、無視するわけにはいかず、とりあえず返事をした。



――ガラガラ


開く扉を、ジーっと見つめていた。


少しずつ見えてくる、扉の前に立っている人物に、俺は目を見開いてしまった。


予想もしなかった人が目の前に居るんだ、驚くに決まっている。


「……小川さん?」


明らかに驚く様子が伝わったのか、彼女はクスリと笑った。


いや、だって、そりゃあ驚くだろ?


今まで一度だって、彼女が2日続けてここへ来た事はなかった。だから、今日は彼女がここに来るはずはない……そう思っていたのに。


予想外の訪問者に喜んでいるのか、焦っているのか、バクバクと力強く心臓は鼓動している。両方か。


俺に会いに来てくれたんだと、勘違いしてしまいそうだ。


「すみません、突然。お伝えしてなかった事があって……」


すまなそうに小川さんは言った。


伝え忘れたこととは、何なのだろうか。





「今年は夏休みが取れていなかったので、遅めの連休を明日からもらってるんですよ。それに、週末は学会に出席しなくちゃいけなくて……明日からしばらく私は休みでいません。土曜日までは私の代わりのスタッフが来ますので、そのお願いに来ました」


喜んだ自分が馬鹿らしく、恥ずかしく思えてきた。俺に会いに来たんじゃなくて、ただの連絡ではないか。


しばらく会えないなんて……本当に、今年は散々な誕生日だ。


「……あぁ、分かったよ。ゆっくり休んできてね」


俺はちゃんと笑えているだろうか。ちゃんと、休み前で嬉しいであろう彼女を笑顔で送り出せているだろうか。


……自信が全くない。


俺の反応に違和感があったのか、不思議そうに俺の様子を伺う小川さんの様子に、胸が苦しくなった。


すぐにでも帰ってしまいそうな彼女を引き止めたいと思うけれど、こんな心情では余計な事まで言ってしまいそうで、結局何も言えない。本当に、情けない。

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