声が聴きたい


和希は最初は登校を渋り、休みがちになっていた。


口元を読み取る読話や、手話、筆談用のメモ、補聴器……どれもが和希の心を苦しめた。


だが、夏休みに入っても、自宅まで週に2、3回は来てくれる担任の柏木先生の想いに触れて、頑なな心が少し解けていく。


少しだけ、やり場のない実母への気持ちを素直に柏木先生に吐き出すと、気分が軽くなった和希は、その事を母、美都子に話す。


すると母親は「和、我慢しなくていいよ、おもいっきり言ってやりなさい、貴女は悪くないんだ、いくらでも聞いてあげる」と優しく言ってくれた。


箍が外れた和希は漸く号泣しながら、自分は悪くないんだと、思い付く限りの事を叫んだ。


「どうしてこなかったの」「私が嫌いなのか」「約束を破るなんて酷い」……溜め込まれた1年間の想いが溢れ出てきた。


ひとしきり泣き叫んだ和希は、約束を破って自分をひどい目に合わせた母親のことはもう、忘れたいと、強く思った。


「お母さん……私、負けたく、ないよ、だから、中学は優と、一緒のところに、行かれるように、これから、頑張るっ!」


傷付いた心が癒えた訳ではないが、無理矢理にでも納得させ、前を向いた和希。


< 112 / 163 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop