声が聴きたい


「ふふっ……知っているくせにねぇ、いいわ、希美花よ。あなたの大好きな和希を産んだ、母親よ?思い出してくれた?」ニコリというか、ニヤリというか、あまり気持ちのいいものではない笑みを浮かべながら答えてくる。


「……ふぅ~~ん、で?何?俺、忙しいんだけど。」


「冷たいじゃない。ハグくらいさせてよ」そう言いながら近付いてくるから、俺はその分後ろに下がった。


「あら、照れなくてもいいじゃない、昔はよくしてあげたでしょう?」なおも近付く希美花に「くんなっ!話がないならもう、行くから。2度と待ち伏せとかすんなっ!」と怒鳴り踵を返し、家へと走り出す。


「せいぜい、仲良しごっこを楽しみなさぁい、あのコが1人泣くのが今から楽しみだわっ……」


最後のほうはほとんど聞こえなかったけど、和希を傷付ける口ぶりなのはわかって、悔しさ、憎さで体から感情が溢れ出てしまいそうで、苦しかった。


「ハァ……ハァ……ハァ…………」急な全速疾走で乱れた呼吸を、玄関で整えていると「おかえり」と母さんが迎えてくれて、その自信に満ちた優しい顔を見たら何だか無性に泣けてきた。(涙はぐっとこらえたけど)

< 153 / 163 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop