例えばここに君がいて
14.走りきれ、俺!
*


「やる気あるのか!」


雷のような一喝を、このちゃらんぽらんな教師から食らうとは思わなかった。

今日の俺は絶不調。スタートではフライングしまくるし、ダッシュの合間にも美術室が気になって集中出来なかった。
木下は帰りがけの俺を捕まえて、人気のないところでお説教をはじめたのだ。


「……すいません」


叱られることにはむかつくけど、確かに悪いのは俺。
殊勝な顔で頭を下げると、木下は溜息をついて俺の肩を叩いた。


「なんかあったか? サユ関連か。お前今日美術室ばっか見てただろう」

「そういうわけじゃ」

「サユも今日元気なかったんだよな」

「え?」


そういえば、木下はサユちゃんの担任だった。


「元気ないって?」

「窓の外見て溜息ばっかりついてた。ありゃーあれかな、恋する乙女の顔かな」

「恋って」


だって、サユちゃんが好きなのって木下じゃないのか?
あ、それとも告白されて、夏目のことが急に気になった?


「お前なんか心当たりないの?」

「ない……こともない……です」

「だったら、なんとかしてやれよ」


なんとかって、どうすりゃいいんだよ。
夏目や木下との間を取り持つなんて冗談じゃないし。


「ま、今日は帰れ」


ポンと背中を押されて、礼をしてかけ出すけど。
俺の頭はモヤモヤしてちっとも落ち着かない。


< 111 / 237 >

この作品をシェア

pagetop