例えばここに君がいて
16.特別なのは君だけ。
 朝から告白とか、しかもどつきながらとか、あり得ないだろう。
しかし、新見明菜にかかると、どんなあり得ないこともあり得てしまうから恐ろしい。

隣の席なのに、どんな顔して話せばいいのか。一人で頭を抱える俺。


「皆席につけ。体育祭も終わったし、ここらで一度席替えをしようかと思う」


担任がやってきて、本日のHRの議題を告げる。

ナイスタイミング、天の助け。
流石に今朝からの状況でのうのうと隣りの席に居続けるのは、俺の精神衛生上よろしくない。

席替えはお決まりのくじ引きで、引いたやつから順に席を入れ替える。


「うあぁぁ、新見の隣かよ」


ご愁傷様、夏目。

そういう俺の隣は中村。俺の苦手な陰湿女子だ。

この間から、変な噂を流しているのもコイツだと思うと、はらわたが煮えくり返る思いではあるが、今は気まずさから新見と離れられたことに安堵している。

前に和晃がいるから、それなりに楽しくはやれそうな席だ。
全員の移動が終わり、ほっと一息つくと窓際の方がぎゃあぎゃあうるさい。見ると、夏目が相変わらず新見に怒られている。


「次は夏目くんかしら」


くすりと笑う声と共に小さく聞こえた中村の言葉。

人を馬鹿にしたような言い方には二種類あるような気がする。
一つは気持ちをそのまま言葉にする新見のような言葉。
もう一つは、もっと嫌な感情を内包した中村のような言葉だ。前者も確かに傷つくのだが、俺が嫌いな方は後者だ。

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