例えばここに君がいて

と思ったら、隣にいた颯がいきなり中村の脇の壁に手をついた。いわゆる壁ドン状態だ。行き先を阻まれた格好になった中村は、驚いたように息を飲んだ。


「そんなに噂とか好きなんだ?」

「ちょ、あの」


颯はドンドン中村に顔を寄せていき、その距離五センチという辺りでピタリと止まった。
話している息はおそらく中村に触れているだろう。


「だったら教えてあげるよ。キミ、男子の中では性格悪いって評判。男の前でだけ態度変わるのも、バレてないと思ってるなら大間違いだから」


一気に中村の顔が真っ赤になり、悔しそうに俺と颯を睨みつける。


「それ、誰が言ったのよ」

「さあ。それがわからないから噂なんだろ?」


颯はニヤニヤ笑いをしたまま、ドンドン中村を追い詰めていく。


「それにまんざら噂だけでもなさそうじゃん。サトルと彼女付き合ってるの知っててそんな事言うのは性格悪いと俺は思うぜ?」

「もう、通してよ!」


中村はいきり立ったまま、颯の腕を押しのけてきた道を戻っていった。
俺は思わず尊敬の眼差しで颯を見つめる。


「すげー颯」

「俺、ああいう女大嫌い」

「中村のこと、そんな噂になってんのか?」

「中村さんっていうのか。噂なんて嘘だよ。後ろめたいところがあるからあんな反応なんだろ。まあ性格悪いは本当みたいだけどな。一度自分が被害者になってみりゃいいんだよ。反省文書かせるより効果ある」

「……颯、案外先生とか向いてるんじゃないか?」


木下より頼もしく見える。
素直に尊敬の眼差しを向ける俺に、颯は呆れたような声を出した。
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