例えばここに君がいて
エピローグ

 そして一週間。中村が木下に怒られた挙句に振られたとか、颯が新見を追っかけまくってキレられたりとか、色々ありはするのだが、俺達の中では日常を取り戻しつつある。

俺は部活終わりに、まだ明かりのついた美術室へと駆け込む。


「サユ」

「もうちょっと。ごめん」

「いいよ。いくらでも待つ」

 
 怪我をした翌日から描いてみようと努力していたサユだが、結局三日間ほどは痛みが酷くて描けなかった。
木下に頼み込んで週末に学校の鍵を開けてもらい、描き続けること四日目。なんとか仕上がりそうなところまできた。


「こんなにギリギリになったの私初めて」

「サユは用意周到そうだもんな」


今は陰影の仕上げをしているらしい。俺から見ればもう出来上がっているようにみえるのだが、彼女は更に色を重ねていく。

そこから一時間、真剣にキャンバスに向かう彼女を見つめる。
スッと伸びた指先、景色とキャンパスを交互に見る瞳、絵を描いている時のサユは可愛いと言うよりは格好いい。


「うん。良し」

「出来た?」

「うん。どう? サトルくん」

「スゲーうまい。俺は馬鹿だからうまく表現できないけど、スゲーって思う」


語彙力の無さが悲しすぎる。
もっと沢山の言葉で、彼女を褒めたいし喜ばせたいのに、俺の口からは単純な言葉しか出てこない。


「そう、ありがと」


彼女はサラリとその褒め言葉を受け流す。
そうだよな、感激させれるようなこと言ってねーもんな。
とは思いつつ、自分の感動度合いが伝わらないことがちょっと悲しい。

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