例えばここに君がいて

 一つ学年が違うってことは案外遠いことなんだ。
 放課後までの時間をヤキモキしながら過ごし、実感する。同じ敷地内にいるはずなのに、サユちゃんとは一度も出会えない。


「サトル、一緒に行こうぜ」

「おう、颯」


 結局部活の時間になってしまって、俺は入部届を手に職員室に向かう。
すると職員室の前では、黄色い歓声が沸き上がっている。何だキャピキャピしてんなって思ったその女生徒の輪の中に彼女は居た。


「だから、センセー。違うってば。あははは」


 笑いながら、赤いジャージを叩く。
だからなんでそんな木下と仲いいんだよ、サユちゃん。


「あの、すんません」


 イライラしながら声をかけると、木下とサユちゃんが一斉にこっちを向いた。

「サトルくん!」

「おお、来たか期待の新星!」


ちょっと待て木下。若干言ってることがおかしいから。


「え? なんでセンセー、サトルくんのこと知ってるの?」

「サユこそ。コイツ新入生だぞ?」


だからさ。
なんでそうタメ口だったり呼び捨てだったりすんだよ。
二人の間にはなんかあるのか?


「サトルくんは昔っから知ってるもん。ね」

「う。うん」


嬉しそうに笑うサユちゃんに、俺の心臓は巨大化したかのようにバクバクする。


「なんだ? もしかして彼氏か?」

「違うの。保育園の時一緒だったんだよ。あの頃サトルくん、可愛かった」

「可愛い……って。言われても」


嬉しくはないな。なんかいかにもガキ扱いじゃん。

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