例えばここに君がいて

「明日だな」


コクコクと頷くイッサ。コイツはホント全然喋らないけど大丈夫なんだろうか。


「ルイ。イッサって学校でもこんな?」

「イッサはいつもこうだよー。ああでもお兄ちゃん心配しないで。イッサにはちゃんと友達たくさんいるから」

「あっそ」


友達100人できるかな、と歌を歌いながらルイは階段を上がっていく。
俺とイッサもその後に続くと、先月片付けた部屋に灯りがついていた。


「ルイ、荷物を移しているのか?」

「んー、いらないものをね。お母さんはベッドも動かそうって言ってるけど。まだイッサと一緒がいい」

「だよなー」


やっぱり、母さんはちょっと気が早すぎるんだよな。まだまだこいつらガキンチョじゃん。


「そういえばサユ姉ちゃんってさ」

「えっ?」


ルイから飛び出した彼女の名前に思わず飛びつくと、ルイはニヤリと笑った。


「やっぱりお兄ちゃんってサユ姉ちゃん好きなの? わたし、サユ姉ちゃんの高校聞かれた時から怪しいなーって思ってたんだよね」

「なっ……」


侮れない妹。畜生、女はやっぱり小さくても女だ。


「そんなんじゃなねぇよ」

「ふーん、じゃあそう言っちゃおうかな。サユ姉ちゃんに」

「ちょっと待て!」


明らかに翻弄されてる。なんで7歳も下の妹にこんな振り回されなきゃならねぇんだ。
ルイは満足気に笑うと掌を差し出した。


「なんだこれ」

「黙っててあげるから、100円」

「……この守銭奴!」

「そんなムズカシー言葉わかんなーい」


含み笑いをしながら言われても信憑性ねぇよ。
ああもう、前言撤回。イッサはガキンチョでもルイは母さんの同類だ。
やむなくルイの手に100円を乗せると、背後から妙に存在感を放った空気が感じられる。


「……俺も欲しい」


振り向くと、静かに手を差し出すイッサがいた。

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