例えばここに君がいて

「母さん、一体この部屋何年放置してたんだよ!」

「えー、記憶にないわ、もう。だから整理にも時間かかるのよ。一年計画で掃除するわよ」

「それ時間かけすぎだろ」

一年かけなきゃ片付かないような部屋は一生片付かねーよ、とぼやきつつ、拾い上げた紙の中に一枚の絵を見つけた。


これは何なんだ? って思えるほどいびつな天使と、可愛く笑ってる天使の絵。
赤色の丸で囲まれていて、二人だけの世界にいるみたいなそんな絵。


「これ、サユちゃんの絵だ」


覚えてる。
俺がこっちの下手くそな天使を描いて、その脇にサユちゃんが描いてくれた。

俺とサユちゃんが、仲良くなるきっかけだったあの絵本。
なんとなく覚えてる。出だしはそう、確か。


「……天使がいました。なまえは ラビィ」

「何いってんのサトル。幻覚でも見えた?」

「な、聞いてんなよ。何でもない」


小声で言ったのに、耳ざといな母さん。


……天使のラビィの絵本だ。一冊しか無い、確か実習できた先生が手作りしたっていう絵本。
お宝探しゲームにはまっていた俺は、その希少価値みたいなのに魅力を感じていて良く読んでたんだった。

でも当時五歳の俺は、ひらがなは読めたけど文字を拾うだけで精一杯で。
だから誰かに読んでもらおうとお願いした。

皆が曖昧に返事をする中で、ちゃんと俺の相手をしてくれたのが一つ年上だったサユちゃん。
すらすらと優しくて甘ったるいミルクみたいな声で読んでくれた。


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