例えばここに君がいて
なんだってなんだよ。俺がいちゃ悪いのか。
木下は遠慮も無く中に入ってきて、看板を確認する。そしてサユちゃんの方に顔を向けると、表情を緩めた。
「さすがサユ。上手に描けているじゃないか。これなら高木先生も川口先生も納得するだろう」
「えへへ。皆ちゃんと手伝ってくれたからねー。いい出来でしょ」
「さすが、高木先生にタンカ切っただけはある」
高木先生とは三年二組の担任だ。厳しいのが有名で、顔もいかついから皆嫌がってる先生なのだが。
「タンカってなんですか?」
「サトル、知らないのか?」
「いいの先生。サトルくんには言ってないから」
「だってサユ」
「大丈夫だもん。これなら絶対通るでしょ」
サユちゃんは得意気に胸を逸らしたけれど。
ちょっと待て、全く話が見えない。
なんなんだよ。なんでサユちゃんと木下とでだけ通じあってんだ。
「良くないよ。なんですか? なんかあった?」
苛立ちを露わにすると、サユちゃんは少し怯み、木下はニヤニヤ笑ってサユちゃんをかばうように立つ。
「サユ、言っていい?」
「いい……けど。でも、サトルくんが気にすることじゃないよ?」
困ったように眉根を寄せて来るけど、俺はわからないことがイヤなんだよ!
むっとしたまま、サユちゃんに詰め寄った。
「教えてよ」
「うん。……あの」
戸惑う素振りのサユちゃんをかばうように、木下が割って入ってきた。
「実はあの看板な。案が高木先生に知れ渡った時点で別なものにしろって言われたんだ」
「え?」
ちょっと待てよ。
そんなの聞いてないぞ。