復讐
幸治は、どのチャンネルを回しても変わらないテレビに苛立ちを覚え、とうとうテレビの電源を切った。

そして、大きく溜息をつき、床に寝そべる。

すると、転んだ幸治に、寝ている筈の民が声を掛けた。

「坊ちゃん。もうテレビは見られないんですか?」

幸治は驚き、起き上がり民を見た。

「民さん起きてたの?」

「はい。民も、坊ちゃんと一緒にテレビを見てましたよ」

「そうだったんだ。ごめん」

「いやいや、坊ちゃんが見たくないのでしたら、民は構いません。しかし、物騒な世の中ですね。いつでも死と隣り合わせで生きていかなくてはいけないなんて。そんなに怯えて生きても、楽しくもなんともないですよね」

「うん、そうだね」

「坊ちゃん」

「なに?」

「民は、坊ちゃんが産まれる前から、雪乃さんを見てきました。その雪乃さんも、死と隣り合わせだったわけです。当然、今生きている民も坊ちゃんも、いつこの世からいなくなるか分かりません。生と死は、生きている限り常に付き纏うもの。それが生き物の宿命だと民は思います。だから坊ちゃん。辛い時は泣いて下さい。嬉しい時は笑って下さい。そして強く生きなさい」

民はそう言うと、喋り過ぎました、と言い幸治の麦茶を喉に流し込んだ。

そして民にそう言われたからなのだろうか、幸治の目からは大粒の涙が流れ落ちた。

幸治は、それを何度も袖で拭おうとするが、とどまる事を知らないそれは流れ続け、幸治はそれを拭う事をやめた。

「民さん。僕はどうすれば?」

「坊ちゃんの人生です。坊ちゃんの思う様にして下さい」

民はそう言うと、ホホホと笑い寝室に戻った。

一人リビングに残された幸治は、相変わらず流れる涙で床を濡らし、やっと涙が枯れはてた頃、立ち上がった。
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