復讐

カーテンをしっかり閉じ、一切の明かりを遮断した暗闇の中で、幸治はアルバムを抱えたまま眠りについていた。

目を覚ましたのは、誰かに起こされたとか、嫌な夢を見たとかではなく、ただ寝過ぎたからだ。

朝、リビングに行った後部屋に戻ってから、一度も部屋から出ず、布団に包まっていた。

だからだろう。腹が減り、喉は渇き、脳は覚醒している為、いくら目をつぶっても眠れる気配がしない。

幸い今の時間なら、安田と美帆は仕事に行っている為、家にいるのは民だけだ。

安田と美帆に関しては、朝の件があっただけに会いづらい感があったが、民なら問題はない筈だ。

そう思った幸治は、躊躇うことなくリビングに向かった。

リビングに入ると、民はソファーに転びテレビを見ていた。

幸治は、とくに民に声を掛けたりすることなく、時計に目をやると、そのまま台所へ行き冷蔵庫から麦茶を取り出した。

時刻は23時だ。

幸治は、コップに注いだ麦茶を手に持ち、テレビを見る民の横へと行った。
ソファーはアザラシのような民が占領している為、幸治は地べたに座り込んだ。

テレビでは、昨年起こったアメリカでの同時多発テロ事件のドキュメンタリー番組がやっていた。

年末だからだろう。最近は特番ばかり放送しているから、この手の番組も珍しくはない。

先週は、日韓W杯の日本代表の軌跡を、これまたドキュメンタリータッチでやっていた。

しかし、一テロ組織がアメリカという大国に牙を剥くなんて、何を考えているんだろう。

しかも、政府と戦おうとしているのなら政府と戦えばいいのに、何故関係のない人達が命を落とし、涙を流さなければいけないのだろうか。

戦う気なんてなく、ただ懸命に生きていただけの彼等が。

そう思うと、とてもこんなテレビを見る気にはなれず、幸治は急いでチャンネルを変えた。

しかし、この時間にやってるのは、どれもニュース番組ばかりで、しかもどの番組もこぞって、今朝起きた殺人事件を取り上げていた。

女子中学生が、出会い系サイトで出会った男性に、乱暴された上で殺害されたというニュースだ。

母雪乃の死からだろうか。このような人間の生死を扱うニュースに、幸治は敏感に反応し、拒否感を示すようになっていた。
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