復讐
正臣は、生唾を飲み込んだ。

そして、混乱する頭を必死で整理しようとした。

しかし幸治は、それに更なる追い撃ちをかける。

「三井って名前やねんけど、おじさんは覚えてる?」

正臣は「あぁ」と、まるで嫌な事でも思い出したかのように答えた。

そして、今度は心を落ち着かせる為、煙草の煙りを勢いよく吸い込んだ。

「彼が言うには、犯人は別におるらしいねん」

正臣は、ただでさえ大きな瞳を、更に広げた。

「どういう事や?」

「ちょっと長くなるけど、いいかな?」

「かまへんよ」

幸治は、一度大きく息を吸い込み、今度はゆっくりとした口調で、一つ一つ、自分でも確認するように、丁寧に話し始めた。

「まず、彼と会うたんは、ClubBellやねん。おじさんも知ってるやろ?ママの店や」

「あぁ。開店の時に、一度だけ行った事があるわ。あの銀座の店やろ?」

「そう。僕も、今はそこで働いてんねんけど、彼は僕に会う為にそこに来てん。ほんで、いろいろと話を聞いたんやけど、話を聞くかぎり、ほんまにやってないねん。まず、彼にはアリバイがあった。事件が起きたんは、僕の家の前の道やねんけど、月島いう場所やねん。でも、三井の家は目黒区いう場所で、月島とは離れてんねん。しかも彼は、事件の直前まで自室で、友人と酒を飲んでいた」

正臣は、幸治の力説に呆れたのか、溜息を一つつき言った。

「幸治、そんなんなんぼでも言えるやろ。そんなんはアリバイなんて言わんねん。第一、酒を飲んでたんやろ?そしたらやっぱり、立派な飲酒運転や。弁明の余地すらないで」

幸治は黙って、百円ライターをこたつの上に立てた。
そして、正臣の煙草を一本とりだし、それを横向きにテレビリモコンの上に乗せ、こたつの上を滑らせた。

それは真っ直ぐと滑らかに進み、先程幸治が立てた百円ライターにぶつかった。
当然、百円ライターは、パタリとこたつの上に倒れた。

正臣は「どないしたんや?」と言い、呆れた様子で幸治を見た。

幸治は「いいから見てて」と言い、今度はボックスの煙草ケースの上に煙草を置き、同じように滑らせた。

そしてやはり、百円ライターはパタリと倒れた。

「おじさん、見て。ケースの上に置いてた煙草が、転がり落ちちゃったよ」

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