復讐

兵庫県宝塚市。

阪急宝塚駅から、車で15分程走った場所に、仲辻家はある。

幸治がこの街に来たのは、2日前だ。

突然の帰省に、叔父である仲辻正臣も驚いてはいたが、我が子の帰りを喜ぶかのように、快く受け入れてくれた。

彼の娘、幸治の従兄弟にあたる結衣に関しては、突然の兄の帰宅に興奮を抑えきれない様子で、終始幸治にべったりだ。

結衣は、幸治の従兄弟ではあるが、年が離れていて、更には一緒に住んでいた時期もあった為に、本当の兄のように幸治を慕っていた。

今年、小学5年生になる結衣は、幸治とは丁度10歳離れている。

しかし幸治とて、いつまでも結衣と遊んでいる訳にはいかない。

幸治には、やらなければならない事があるからだ。



元旦ということもあり、正臣は朝から酒を飲み、昼過ぎには既に頬を赤らめていた。

そして幸治もまた、正臣に付き合い、朝から頬を赤らめていた。

結衣と叔母の妙子は、そんな二人に付き合ってられないといった様子で、昼食後には家を出ていた。
「どうせ神戸あたりで、初売りセールとか言って福袋を買いあさってんちゃん」と言ったのは正臣だ。

幸治は「どうやろうね」と言いながら、正臣に酒を注いだ。

普段は標準語の幸治も、こっちに来ると関西弁になる。

別に意識をしている訳でもなく、自然とそれが出てくるのだ。

酒のせいもあるだろう、こたつに入れた足が汗ばんできたのを感じ、幸治はこたつから足を出した。
そして胡座をかき、「おじさん」と言い、真っ直ぐに正臣を見つめた。

正臣は、幸治の真剣な眼差しに一瞬怯んだが、なにかあると思い、彼もまた真剣に幸治を見た。

「なんや」

「ママのことやねんけど」

「ママ?あぁ雪乃か。どないしたんや?」

雪乃が死んでから、既に4年が経っていた。正臣は、なにをいまさらといった様子で、煙草に火をつけた。

それは、幸治があまりにも真剣な面持ちだった為、結婚するだとか、子供が出来ただとか、金を貸してほしいだとか、そんな想像ばかりしていた事から生まれた、安堵のあらわれでもあった。

そして幸治は、言葉を選ぶでもなく、まるで「みかんを取ってくれ」とでも言うような、とても軽い口調で言った。

「ママを殺した犯人に会った」
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