復讐
そう言った瞬間、まるでダムが決壊したかのように、正臣は泣き出した。
しかし、幸治はそんな事も気にせず、更に正臣を問い質した。

「どこや?どこで誘拐されたんや?」

しかし、正臣は「結衣、結衣」と泣き叫ぶだけで、なにも答えない。

そんな正臣に、幸治は力いっぱい怒鳴った。

「叔父さん!しっかりしろや。男がいつまでもぐじぐじ泣くな。まだ結衣が死んだんとちゃうやろ。捜しに行かなあかんのとちゃうんかい」

その言葉に正臣は、はっとして、少しだけ高い所にある幸治の顔を見上げた。

そして今度は、弱々しくではあるが、しっかりと幸治を見つめた。

幸治は、正臣の肩を掴む手に更に力を込めた。

「どこで誘拐されたん?」


「三ノ宮や」


「三ノ宮のどこ?」

「阪急や」

幸治は驚き、正臣の肩から手を離した。

「阪急?阪急て、デパートのか?そんな人がぎょうさんおる所で誘拐されたんか?」

正臣は、誘拐という言葉に肩を落とし「あぁ」とだけ答え、うなだれた。

幸治は、正臣の肩をポンポンと二度叩き、何も言わず家を出て行った。


そして、家に残された正臣は、再び一人泣き始めた。

「結衣、結衣」と呟きながら。
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