復讐
今でこそ、法律が改正され、危険運転致死傷罪という罪名が出来たが、当時はそんなものはなかった。
幸治の叔父や安田は、主文を聞いた瞬間、肩を落とし最後まで裁判を見届ける事なく、裁判所を後にした。

その後、幸治は兵庫県にある叔父の家に引き取られ、そこで19歳になるまで暮らした。

しかし、そんな幸治に転機が訪れたのは、雪乃の三回忌でのことだった。

雪乃の墓は、彼女の故郷である兵庫県に建てられ、法事もそこで行われた。

「おう、幸治。お前背伸びたな」

食事の席で、幸治の向かいに座る安田が言った。

「えぇ。まぁ」

「なんだよ、お前。堅っ苦しいやつだな。それが16になるまで一緒に住んでたやつの言う事かよ」

幸治は「いやぁ」と照れ笑いを浮かべた。

「それよりよ、お前東京に帰ってこいよ」

「え?」

「いや、さっき叔父さんとも話したんだけどな…」

「あ、安田さん。なんか口から一杯出てるよ」

安田は「お、あぁ。わりぃな」と言い続けた。

「いやな、おまえももう成人する訳だし、東京にある家に帰って来た方がいいんじゃないかって思ってな。ほら、店の事だってあるしよ」

幸治は俯いた。そう言ってもらえるのは有り難い事なのだが、兵庫県に住む理由もなければ、東京に戻る理由もないからだ。
ただ、小さい子供もいる叔父の負担を考えれば、これから自分も働きに出て、少しは楽をさせてあげたいという気持ちもあった。

「うん。叔父さんは?」

「うーん。おれはどっちでもええで。幸治も立派な男や。好きにしたらいい。ただ、おれの家の事は気にするな。おまえに助けてもらおうなんて、これっぽっちも思ってへんからな」

叔父はそう言うと顎に蓄えた不精髭を摩りながら「ね、安田さん」と言い安田を見た。

「まぁ、今すぐにとは言わねぇからよ。気が向いたら来いよ。お前の家は、おれと民で綺麗にして守ってるからよ」


「うん。分かった」
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