甘い愛で縛りつけて


幸い、保健室と事務室は少し離れてるしバッタリ会う事もそうそうないだろうって思ってたのに。
まさか、事務長に逃げ道を塞がれるような提案をされるなんて思ってもみなかった。

「あの、いくら親戚と言っても、あまり一緒にいると生徒が誤解をするかと」
「このくらいの年齢の子は、なんでもそういう事に結び付けようとするものだろう。
気にする事ないよ。例え噂になってもそんなものすぐに消えていく」
「でも……朝宮先生は、私の助けなんて必要としていないかと」

壁にかかっている時計がカチカチと秒針を響かせながら刻む時間は、7時42分。

8時20分までに出勤すればいい決まりだから、この時間の事務室にはまだ私と理事長しかいなくて静かだった。
これがあと20分も経てば、事務室前の廊下を通る生徒で騒がしくなるんだけど。

やんわりと断った私を見て、事務長が微笑む。
いつも思うけど、事務長は常に微笑んでいるような人だから、感情が読めない。
多分、心では怒っていても微笑む事ができる人なんだと思う。

「五年前に、違う高校で初めて朝宮くんに会った。
その頃私は、胃痛に悩まされていてね、保健室を利用する機会が多かったんだ」

急に始まった昔話。
今までの会話と何か脈略があるのか考えているうちに、事務長が続ける。


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